-子宮頸がんコントロールプロジェクト-
子宮頸がんコントロールプロジェクトについて
子宮頸がんは婦人科がんの約80%を占めており、国内での年間罹患病者数は約15000人で、年間にしますと約5000人近い死亡者があるとされています。
子宮頸がん発生には、HPV(Human Papilloma Virus;ヒト乳頭腫ウイルス)が関与していることは多くの研究報告で実証されています。
現在HPVは約100種類ほど知られていますが、子宮頸がんを引き起こすいわゆる高危険度HPVは15種類程度と考えられています。
これらのウイルスはごくありふれたもので、性交渉の経験のある女性であれば70%程度が30歳までに感染します。
2003年、北陸三県の病院で実施された性感染症(STD)の10代女性患者の56%にHPVの感染が見つかったというショッキングな結果も出ているほどです。初交年齢の低年齢化、安易な感覚での出会い系サイト、援助交際、性風俗でのバイト等々と10代の開放的性意識の広がりがもたらしたものと考えられます。全米でも約2000万人の男女、15〜24歳の女性の4分の1が感染しているという報告がなされています。
このウイルスに感染しても多くの場合はその人の免疫力によってウイルスが体内から排除(1年以内に70%、2年以内に90%)されます。しかし、およそ10%程度の女性がウイルスを排除できず、感染が長期化(持続感染)して子宮頸がんに進展する可能性が高いと言われています。
では、HPV陽性の女性が子宮頸がんに進展発症する場合の重要な危険因子は何でしょうか?
それは、初交年齢(16〜19歳)、若年妊娠(10代)、既婚とその後の離別、パートナー数(4人以上)、HSV-2(性器ヘルペス)感染、クラミジア高抗体価、ピル服用(5年以上)、喫煙(20本/日以上)といったライフスタイルや性活動の因子とHPVの型、CIN(異性型・上皮内がん)の程度、HLA(組織適合抗原)U分子の遺伝的差(Allele)、液性(helper T type;Th2)および細胞性(helper T type1;Th1)のいずれが誘導されるか否かといった免疫応答の差、といったウイルス免疫に関する因子が深く関係すると指摘されています。
とするならば、これらの因子が細かく分析することにより、子宮頸がんへ相対的危険度を前もって予知することが可能と思われますし、早く治療を始めることもできます。
最近の研究によるとHigh risk(高危険度)グループ14−15タイプの中でも特に、16 / 18 / 31 / 33 / 35 / 45 / 52 / 58 の8タイプが日本人に特に危険という指摘があります。これらに感染しますと前癌状態を経由してがんに至ります。
CINの程度(グレード)は異形成(Dysplasia)が高い程がんに進行する率は高く、その時間は短いとされています。
HLAに関してはDRBやDQBの遺伝的差によりがんへの進行の危険性が高まったり、低下したりする事が一部わかってきています。
免疫応答に関しては、Th1とTh2は拮抗関係にあり、Th1>Th2だとがんは治癒し、Th1<Th2だと持続感染が残り、癌化するとしています。即ち、がんに対しては細胞性免疫が本来の応答システムだからです。
ただし、CIN−2以上の病変では何らかの原因で自己免疫調節の破綻やがん細胞の不応答といった多様なパターンも予想されます。
子宮頚がんの最近の傾向としては、30代から増え始めかつ若年層の患者が目立ってきているのが特徴です。
したがって子宮頚がんが結婚、出産、閉経を経た年代に多かった頃の治療法はおのずと変えなければならないのではないでしょうか。
これから結婚をし妊娠、出産を迎える年代に対する治療は当然の事ながら妊孕性中心に様々な配慮をしつつより保存的な方法を優先する事が肝要と思われます。
従来の局所療法(冷凍療法・電気外科的ループ切除術・円錐切除術・レーザー蒸散法等)も保存的ではありますが、出血、感染、不完全切除・遺残・子宮口狭窄と閉鎖、不妊、頚菅無力症と早産、性生活QOLの低下等の悪影響が少なからず起きる欠点が指摘されます。
また、従来の局所療法の場合、原病等が消失してもHPVの再感染のためにCINが再発生する可能性もあります。そうなれば子宮全摘が次の選択肢ということになり大変です。
先に述べた通り子宮がんの原因がHPVであることは分子生物学・疫学・ウイルス学・細胞学・組織学により実証済みでありますが、現在これらの事実を受け臨床医学への応用が様々に試みられています。
2003年よりアメリカでは、HPVの検査を子宮がんと併用し、第一次スクリーニング検査として確立しています。
しかし、わが国では医療費抑制政策の方向にあり、今後同様なスクリーニングシステムが導入される事は残念ながら期待できそうにありません。
また仮に同システム導入されたとしても、約20%と世界的にみても低い子宮がん検診率では、早期発見もおぼつかないでしょう。近い将来に啓蒙を遍く浸透させ結果、受診率を上げ同様なシステムでスクリーニングできる事を切に願うものであります。
もう一つはHPVワクチンの開発です。その中には予防的ワクチンと治療的ワクチンがあります。前者に関しては、その効果91.6〜97%という報告がありかなり期待できそうです。
後者に関しては、92%〜100%というデータもありますが、臨床的効果としてはまだ不確定と思われます。M社,G社といった欧米2社が開発を手がけて現在我が国でも鋭意臨床治験がおこなわれているところです。16 / 18型(16Type 60%;扁平上皮がん / 18Type 10%;腺がん)をターゲットとするタイプと低リスク型(尖圭コンジロームの原因)を含む 6 / 11 / 16 / 18 型をターゲットとする2種類の遺伝子組換え型4価ワクチンです。
ただ、これらが承認を受け我が国に導入されてもいくつかの問題点が残ります。
米国のみの国事情により全米で70%を占めるHPV 16 / 18 がターゲットになりますが、日本国内ではその両タイプは全体の40%しか占めていませんのでワクチンの恩恵を受けられない人が多い事になります。
運用に関しては予防接種という観点から接種年齢は11〜12歳頃が妥当かと予想されますが、本格的性活動までの間に何回かの追加接種が必要になるでしょう。更に治療的見地からは既感染者への接種(もちろん有効性が実証されてのことですが)や、男性パートナーへの接触の可否も問題になるでしょう。
またワクチンの普及によりhigh risk グループへの新たなmid-low type HPVのシフトがあるかも知れません。
更に抗癌剤として承認を受け夢の肺がん治療薬として華々しく登場したイレッサの重篤な副作用出現例にも見られる様に実際に使用してみないとわからない不安も皆無ではありません。
先にも述べました様に子宮頚がんがこれからも結婚、妊娠、出産を迎える年代を中心に増加傾向にある中、従来の依存的局所療法で少なからず起こる弊害ですら極力減らす必要があります。
その為の新しい治療法を模索中です。
まだ症例は少ないのですが現在までに、高危険度HPVの16 / 18 / 35 / 51 / 52 /56 と未知型、不明例の各タイプを消去した実績があります。HPV消去後に再感染した例やHPV消去後性的接触を完全に絶っていたにも関わらず再出現した症例も、当然消去しなかった幾つものケースがありますが、ほぼ全例において細胞診の治療前よりの確実な改善が確認されています。この治療法は切ったり、出血したりしません。痛いこともなく入院の必要もなく真の保存療法と言えるものです。
CIN進展に関しては、20代は消失し易く、30代は進展し易く、40代は消失しにくく進展しにくいという貴重な研究報告がありますが、先に述べましたように敵のウイルス側の因子と宿主側の免疫因子を細かく分析しHPV typeやHLAクラスUアレルを中心に各年代の治療方針を立てています。
他にもIL-10、TNFαといったサイトカインやP16等が子宮頚がん腫瘍マーカーとして注目されています。更にFasやGST等を用いた遺伝子診断に強い期待が持たれています。
がんは早期発見、早期治療が第一と言われて久しいのに、現状の早期発見は自分で異常に気づくか、がん検診で初めて確認される事を意味していて本来意味するところの未病の段階での超早期発見にはほど遠いものです。
その結果統計を取りはじめてから一度たりとがんによる死亡率は下がった事がないのです。この様な現状では早期治療も無理です。
2003年ゲノム計画の完成以降、遺伝子診断と遺伝子治療の急速な進歩が認められていますが、子宮頚がんのみならず全てのがんに対し勝利する日が早く来る様に願いつつ、がんへの闘いを進めて行きたいと思います。